私の祖母の体験談です。
祖母は長崎の出身ですが、父方の実家が長崎のとある島にあります。
盆暮れ正月は、その島に連れられて、本家にご挨拶にうかがっていたそうです。
その島は、小さな畑と漁業で成り立つような田舎でした。
長崎市内の出身であった祖母には、なじみのないものがたくさんあったようです。
お盆の時期に帰省して、島の子供たちと遊んでいると
海に入ってはいけないと島の大人に叱られたそうです。
そして、夜になると家から出てはいけないとも。
お盆が近くなると、家々の玄関や窓に注連縄のようなものが飾られます。
「これがあると海から来る悪いものが入ってこない」
父親がそう教えてくれたそうです。
お盆の間は漁もありませんので、夜は本家で宴会が始まります。
子供たちはおなかいっぱいになるまで食べさせられて
早々に離れに寝かされ、大人たちは母屋で酒盛りをします。
お盆の最終日、寝ていた祖母は、なぜか目を覚ましたそうです。
大人たちが母屋で騒いでいる声が聞こえていたけど
なんだか遠くに感じられて空恐ろしく感じられたそうです。
布団に入ったまま、ふと視線を上げると、窓からこちらを見ているものがありました。
真っ黒の、やけに背の高い影だったそうです。
祖母はその影に恐ろしいような、懐かしいような印象を受けました。
その影に呼ばれているような気がして、布団から出ようと思ったけど体が強張って動きません。
影はそれを、じっと見つめています。
祖母は妙な焦燥感に襲われながら、体を動かそうと必死になったけど
どういうわけだか何かに抑えられたように息もうまくできません。
「わあ!」
と、いきなり喉の奥から声が出て、そのとたんに体が動きました。
祖母の声に驚いて、雑魚寝していた他の子達が目を覚ましました。
「ちよちゃん、どうしたの」
「今そこに誰かいた」
窓を指差しても、そこにはなにもいなかったそうです。
大きな男の子が勇気を奮って窓を開けたところ
途中で断ち切られた注連縄がぶらぶらと揺れていたそうです。