それは関西にある有名な温泉観光地にほど近いビジネス街に出張した時に私が体験したことです。
もうあれから20年ほどが経ちます。
仕事の都合から、できれば温泉観光地に宿泊したかったのですが叶わず、ようやく予約できたビジネスホテルでした。
フロントでチェックインした時に、ビジネスホテルなのに薄暗い印象を感じましたが、その時は気のせいだと思いました。
仕事を済ませ、食事してホテルに戻り、翌日の仕事に備えて早めに就寝しましたが、
夜中に目が覚めてしまい、ほとんど夜中に目を覚ますことがない私はとても驚いたのです。
ですが、もっと驚いたのは全く身体が動かないことでした。
声を出すこともできずに自分の身に起きたことが理解できませんでした。
何が起きたのか理解できないまま、ただただ怖くなってとにかく身体を動かそうとしました。
すると、首だけが少し動きましたのでドアの方や足元を見たところ、
なんと、白い腕がベッドの掛布団をつかもうとしていたのです。
片手は宙に浮かんでいました。
腕を見たときに、女性のものだとはっきりと感じました。
怖くて怖くて、出ない声で必死に般若心経の覚えている部分だけを繰り返し唱えました。
どれくらいの時間が経ったでしょうか。
短い時間だと思いますが、私にとってはひどく長い時間でした。
どんっとベッドが少し揺れたかと思った瞬間、すべてが消えていました。
身体も動くようになりましたので、部屋の明かりをすべて点けて時計を確認しましたら、夜中の3時すぎでした。
もちろん、そのあとは眠ることなどできませんでした。
逃げるように翌日チェックアウトしましたが、私が宿泊した3か月後に廃業したことを知ったのは、半年ほど後のことでした。