これは、あの東日本大震災にまつわる体験談です。
直接的に震災に巻き込まれた、というわけではありません。
あの震災に関連して不思議な体験をした、というだけです。
私は、どちらかというと実際的な性格で、オカルトとかは信用していません。
でも、これだけは実際に自分が遭遇した、唯一のオカルト体験なのです。
あの震災の3年前の2月の末のことです。
私は、大学4年生で、卒業も就職を決まっていて、あとは卒業式を待つだけでした。
それで、卒業旅行ということで、東京から仙台まで、のんびりと一人旅をすることにしたのです。
目的の一つは、茨木の五浦の岡倉天心の美術館でした。
こうみえても、明治の絵画に興味があるのです。
五浦を出た後、北上して、ある駅で降りました。
名前は伏せますが、あの震災で大被害があった地区です。
一人旅の気楽さで、てきとうなところで降り、てきとうな旅館に泊まろう、としたのです。
その旅館は、こういっては失礼かもしれませんが、
かなり老朽化が進んだ建物であり、経営しているのも老夫婦だけでした。
家族的な雰囲気で、食後、その老夫婦と歓談しました。
その時、それを感じたのです。
うまくいえませんが、老夫婦の影が薄いような感じです。
ご主人は、元漁師だったそうで、日焼けしてガッシリした体格の人です。
奥様も、農作業を長年やっていたらしい、健康な人です。
「最近、もうろくしましてねぇ」とかおっしゃっていましたが、見た目には、まだまだ長生きするような外見です。
でも、どこかおかしいのです。
安易な表現をすれば、死神が背中におんぶしている、というような感じがしました。
それと、もう一つあります。
寝る前に顔を洗おうとしたら、水が鼻に入ってしまいました。
なんだか、このまま溺れてしまう、という感じがしたのです。
これは、本当にいやな感じでした。
あの震災があったとき、私は大阪の支社で営業をしていました。
ニュースを見て、最初に思い出したのが、この旅館での体験でした。