私が中学三年生、高校受験を控えていた時期でした。
その頃、私は長崎の端の方の地域の県営の団地がひしめき合う、決してキレイとは言えない3DKのアパートで家族4人、暮らしていました。
そのアパートのある場所が大きな総合病院の本当に目の前で、時折患者さんが非常階段でこっそりと煙草を吸っている風景が、アパートのベランダから見える程でした。
私は受験勉強で毎晩夜中の2時、3時頃まで起きていたので、私だけ狭い空間でしたが一人部屋が与えられていました。
夜中真っ暗な中に机の電気だけが灯っている風景は今思えば、寒々しい風景だったと思います。
ある夜の事でした。
いつものように受験勉強と通っていた塾の宿題に追われ、夜中の1時を過ぎた頃でした。
季節は秋頃でさすがに寒いので、お風呂に入ろうと机を立ち、お風呂に入りました。
その後、うちにはもう一部屋、畳の5畳程度の部屋があり、その部屋に母が嫁入り道具として持ってきた団地には似つかわしくない大きな箪笥が二つ、壁際に並べられ、その他に母の「鏡台」が置いてありました。
鏡台は箪笥の反対側に置かれていて、ちょうど鏡台に座ると鏡に箪笥が映るような位置です。
その鏡台に座って、いつもお風呂上りに髪を乾かしていたのですが、私は実は前からその部屋が「嫌い」でした。
いつも夜にその部屋に入ると、何だか人の気配がするというか、いつも暗い部屋でとても嫌な気持ちがしていたのです。
なので、いつも夜遅くに髪を乾かす時には、半分濡れたような髪の状態のまま、その部屋を早く出ていたような気がします。
その日もいつも通り、鏡台に座り髪を乾かしていました。
下を向いた状態で髪を乾かしていたのですが、ふとした瞬間に顔を少し上げて、鏡を見た時の事です。
私は手を止めて、動きが固まってしまいました。
なんと反対側に置かれている箪笥の隙間に「女の子」が居るのです。
肌も着ている物も真っ白で、長い黒髪の女の子。
年齢にして10歳ぐらいでしょうか。
白目は見えず、目は真っ黒でこちらをジッと見ているのです。
私は金縛りにあったようにその場から怖くて動けなくなりました。
しばらくその女の子と目が合っていたのですが、はっと気づいた時に後ろを向くと、その子は居ません。
鏡には映っていたのに。
私はその部屋からドライヤーを置いて飛び出し、母の布団に潜り込みました。
勉強は途中だったのですが、震えが止まらずに勉強どころではありませんでしたので、その日はそのまま母の布団にもぐりこませてもらい就寝しました。
翌朝はいつも通りの部屋の風景でした。
私は益々その部屋に入るのが嫌になり、お風呂だけは早めに済ませるようになりました。
その後、その団地を引っ越すまでその女の子は現れませんでしたが、母に話した時、「前の総合病院には小児科で入院している子も居るから、もしかしたらそこに入院していた子の魂だったのかもしれないよね」と話し、二人でベランダでそっとお線香を燃やしました。
もう真夜中の鏡越しにあんな体験をするのはこりごりです。