「いやあ嫌な物、見ちゃってさあ・・・」
急に飲み会の席で友人のAが語りだした。
Aは高校卒業後に映像系の専門学校へ通い、プロのカメラマンになっていた。
そんな彼が、仕事で写真を撮影しようと立待岬へ向かった時の話だった。
何でも、そこは自殺が多いという理由や治安の関係から、
時間になるとゲートが閉まり車で近づくことが出来ない場所だった。
故にAは夕暮れ時を撮影しようと思い車をゲートの前に止めて岬へと向かった。
断崖絶壁であるそこは落下防止用の柵はあるものの、
まるでサスペンス劇場で出てくるような崖であり、
落ちたらひとたまりもない場所だった。
故に、自殺が多いことはよく知られていた。
Aは沈みゆく夕日を被写体にしてカメラを構えた。
その刹那・・・ファインダー越しに落ちていく何かが見えたのだった。
「え?!何だ!!」
そう思いAはすぐにその何かを確認しようと思い崖の下を覗いてみると、
崖の下の岩にたたきつけられて動かなくなっている女性の遺体が見えた。
これはやばい!と思ったAは警察に連絡し、現場検証が行われた。
亡くなったのは23歳の女性だったらしい。
近くの崖の上から彼女の靴と遺書も見つかった。
Aは色々と聞かれたようだったが、すぐに開放されたらしい。
数日後、写真の整理をしていてあの時の写真を思い出したAはカメラの画像をPCで確認した。
すると、連続で撮影された写真には其の女性が正しく落ちていく姿が映し出されていた。
そしてその写真を興味本位で拡大したAはぞっとしたらしい。
「何でもな・・・その女の顔が全部こっち向いてさ、こう・・・にやり・・・って笑ってるんだよ・・・。」
そんなことを言っていた。
それから1年後、私はAと再び出会う事になった。
何でもAはカメラマンを廃業したらしい。
その理由をAに聞いてみると
「ああ、だってさあ、写真撮るとな・・・今も映るんだよ・・・
写真の横に、落ちていくあの女の姿がさぁ・・・。」
あの事故以来、Aが撮影する風景写真には絶対に存在しないものが映り混むようになったらしい。
故に彼の写真は全部NGとなってしまい、彼は仕事を失った。
撮影する写真には、あの時の飛び降りる女性の姿が写り込んでしまうようになったとのことだった。
「お前も写真撮ってやろうか?」
Aは笑いながら最後にそんなことを言っていた。