私が中学1年生になったばかりのときの話です。
中学校入学を機に、親の仕事の都合で地方都市から周りは田んぼばかりの田舎に引っ越してきました。
畑も田んぼも当時の私にとっては物珍しく、
その日は学校が休みで家にいても特にやることがなかったので家の近所を散歩してみることにしました。
家のすぐ近くにバス停があり、その側の階段を降りると広い田んぼにたどり着きます。
テレビで見るような綺麗で明るいイメージの田んぼとは違い、
周りには民家はちらほらとしかなく、鬱蒼と木が生い茂った林の周りではカラスがうるさいほど鳴いていて、
5月の晴れた昼間でもちょっと気味が悪く感じたのを覚えています。
1時間位音楽を聴きながら散歩していましたが、
思った通り田舎で店も何もなくてつまらないし小腹も空いたので家に帰ることにしました。
そこで私は来た道を戻り始めたのですが不思議なことに気付きました。
歩いても歩いても周りの景色が変わらないのです。
途中小川の土手で座って休んだりもしたので、距離としては2キロくらいしか歩いていないはずです。
目印になるはずの来た道にはあった看板も無く、アスファルトの道と鬱蒼と茂った林、
その横には田んぼだけが続いていました。
カラスはより一層激しく鳴き始め、怖くなった私は泣きながら走りました。
さっきまで携帯の電波は3だったのに圏外になっていて家にも電話できません。
そのとき、突然100m位先の道にお婆さんが見えました。
周りに民家はありません。
農作業着を着ているように見えましたが今は平成なのに100年以上前の人のように見えました。
直感でなぜかそう思いました。
お婆さんはこちらを見ていました。
よく店先とかに無表情の能面が飾ってあると思うのですが、それとそっくりの顔でじっと私を見てきました。
直感で「逃げなきゃ」と思ったのですが何故か身体が動きません。
その場から1歩も動けないのです。
目を閉じることもできなかったそのときです。
100m先にいたお婆さんが凄いスピードで滑るように私の目の前に移動してきて【ニカッ】と笑いました・・・
気が付くと私は田んぼとバス停の間の階段のところにいました。
携帯の時刻を見ると普通に家を出て散歩をして帰って来れば丁度その位になる時間しか経っていませんでした。
どうやって戻って来れたのかはわかりません。
あれが何だったのか、誰だったのか私にはわかりません。
只、家に帰り霊感のある祖母にそのことを話すと、
私に有無を言わさずその日のうちにお祓いに連れていかれ、私達家族は間もなく引っ越しました。
私は大人になった今でも田んぼやお面の類が苦手です。