これは高校の同級生のS君から聞いた話です。
彼は高校から社会人の30代までずっとラグビーをしていました。
現在は現役選手ではありませんが、地元で高校生にラグビーの指導をボランティアでコーチとしてやっています。
そんな彼から以前聞いた話をしたいと思います。
これは彼が高校3年生の時の夏でした。
ラグビー部に所属し、全国大会出場を目指していました。
ラグビー部の夏の合宿は長野県の菅平で4泊5日で泊まり込みで行くのが恒例行事となってました。
夏の菅平は日差しが暑く、温度も上昇しました。
ですが、時折山からの心地よい風が吹いてきて楽な時もあったそうです。
日々練習に明け暮れて、夕方に食事し、戦術の勉強、就寝と夜更かしも出来ないほどハードな練習だったそうです。
他の部員も疲れていて直ぐ眠ってしまったそうです。
最終日の前日の夜、ラグビー部で恒例の花火大会があったそうです。
この日は顧問の先生も許し、買ってきたありったけの花火や爆竹を鳴らし、ストレスも解消するということをしたそうです。
S君達はライターで火をつけて打ち上げ花火や爆竹等様々な種類の花火を楽しみました。
S君達の宿泊場所はラグビー場の近くでしたのでそこで花火をしてました。
S君はふと気づきました。
少し離れたラグビー場の緑の囲いのネットの向こう側に小学生くらいの女の子と、30代の母親らしき女性が白いワンピースを着て佇んでいたそうです。
最初は花火の煙で良くは見えませんでしたが、次第に見えてきたそうです。
ただ、その子供と女性は何故か無表情でした。
とても顔色が白く、S君はとても不気味に思いました。
ですが、他の部員に花火を勧められて直ぐに忘れました。
花火が終わり、S君達は花火の後始末を始めました。
結構ロケット花火を飛ばしてラグビー場側に何本か飛んでいきました。
S君は副部長でしたので、部長とマネージャーの女性Jさんとライトをつけて別れ回収に行きました。
S君は丁度、子供と女性が見えたあたりを見に行きました。
何本か飛んできていたので回収し付近を見ていた時でした。
すると、S君の手が急に冷たさを感じました。
夜は涼しかったですが、山地とはいえ、震えるほどの寒さではなかったそうです。
右手に感じた冷たさが雪のような感じだったそうです。
よく見ると、白いワンピースの子供がS君の手を握っていたそうです。
S君は怖くなり振りほどこうとしました。
が、結構力があって簡単に取れませんでした。
S君は怖くなり手に力を入れて取ろうと何度もしました。
よく子供の女の子を見ると、膝から下が見えなかったのです。
女の子は無表情で「もう、遊ばないの?」とニマッと笑顔をS君は向けてきました。
「うわっ!」
そこでS君の手が自由になり、終えた花火のバケツの水をこぼしながら猛ダッシュでその場を離れました。
ホテルの近くに戻り、女の子達のいた場所を見ましたが誰もいませんでした。
S君の心臓はバクバク鳴って汗が止まらなかったそうです。
S君の手には指先がまだ冷たさが残っていてなかなか思うように動かなかったそうです。
S君は怖さと疲れで部屋に帰り直ぐに寝てしまいました。
翌朝、帰り支度の為に早起きし、S君は食堂に向かおうとしました。
すると女子マネージャーのJさんが寄ってきました。
彼女はS君に言ったそうです。
「昨日、花火の片付けしているときに私見えたんだけど、S君の右手を握っていた女の子が怖かったの。足なかったよ。」
と聞かされ背筋が凍ったそうです。
Jさんは、遠くの方に片付けに行ったS君を何気に見たらその光景が見えたそうです。
S君が逃げたら、嘘のように女の子はパッと消えたそうです。
それと、部長のDさんの背中にはお母さんらしき女性がDさんの猟方に手をやってました。
やはり足は見えずに不気味な笑みを浮かべていたそうです。
(Dさんは特にこの時怖い思いはしなかったそうで、何もなかったと言ってました。
ただ背中や肩のあたりがやたら重かったとのこと)
S君はその話を聞き、朝食が喉になかなか通らなかったそうです。
その後特に何もなく帰宅できたそうです。
それ以来菅平の地は二度と踏むことはないですが、たまにお酒を飲みに行くとき必ずこの話を聞かされます。
「もう、二度と行きたくない。怖い思いはしたくない。」と。
特に誰かが亡くなったとか噂とかはなかったみたいですが、S君が嘘をつく人物だとはその話を真顔で語るたびに思いません。
そんなS君の体験した怖い話でした。