以前、チラシのポスティングのバイトをしていました。
とある寒い日。
病院近辺のマンション、アパートにチラシを配っていました。
そこは病院から道を挟んで建てられた医療従事者用のマンション群がある場所でした。
しかし、数ヶ月前に離れた場所に新たに寮が建ち、
そこは取り壊しが始められる予定のマンションでした。
俺はそれに気付かず、内部に侵入してしまいました。
中は当然人気は無く、すでに荒れ初めていました。
(なんかおかしい…)
とは思いながら、俺は誰もいない個室の郵便受けにチラシを入れ続けました。
初めの一棟目を終え、二棟目に向かう際に、中庭のような場所を通った時の事です。
大変風の強い日であり、俺が出た一棟目から「ダァッーン」と豪快にドアが開かれる音がしました。
誰かが出てきたのかと思いました。
事実、足音もした気がします。
で、二棟目に入りました。
一階の郵便受けにチラシを入れると、また『ダァッーン』 と音がして、数メートル先のドアが開きました。
誰かが出てくると思いましたが、誰も来ません。
(おや?)と思い、恐る恐るそのドアに近付き、そっと部屋の中をみました。
部屋の中は何もなく、古びた畳と、ガランとした居間があるのみでした。
(空き部屋か?)
(鍵をしていなくて、この風で勝手に空いた?)
と、都合の良い想像をして、そのドアをしめました。
ドアは頑丈で立て付けもしっかりしているように思えました。
その瞬間、今度は中庭で『ダァッーン』と音がしました。
見に行くと、さっきは気が付かなかったのですが、
そこには古びたロッカーが放置されていました。
(古いから取り返したのか?)
と、また都合の良い想像をして、さっきの音がそれなのか、
確かめようとロッカーのドアを掴もうとした瞬間、ドアは俺の手を避けるように静かに閉まったのです。
その感じが生き物のようだったので、いきなり恐怖に駆られ、そこを飛び出しました。
そして、遠くから見れば、そのマンションの窓には全室カーテンがかかっておらず、無人。
廃墟同然だったのです。
俺は怖くなって、チラシも放っておいて逃げ帰りました。