これは、自分が大学生一年生…20歳の誕生日を一ヵ月後に控えた、19歳最後の初夏でした。
16歳の時に初めて金縛りに遭って以来、ちょくちょく金縛りに遭っていたのですが、大学生の時はピークで、酷い時は二~三日に一回は遭っている、という頻度でした。
なので金縛り自体が生活の一部となっていたので、今回もその類に漏れないものだと思っていました。
三日連続で金縛りに遭った今回。
いつもなら、毎度毎度、来る霊は違っていた筈なのに、今回は…何となく、同じ霊が来ているような気がしました。
白い、もやもやとしたものがお腹にずしっと。
流石にこんなに頻度が高く、しかも同じ霊が来たなんて事は初めてだったので、何となく気になって、時計をチェックしました。時間は…午前2時。
そして四日目。また来た…と思って、今回も時計をチェックしました。また、午前2時。
流石に「やだなー。ちょっと怖いかも…」と思い始めた五日目。
今回は、金縛りと共に声が聞こえました。「気付いて!」という…子供のような声。
正確には、声というか“思念”ですが。
そして、自分はなぜか…手の甲で壁をバンバン叩き始めたのです。勿論、自分の意思じゃありません。
「痛い! 気付いてるから!」と言っても、声はまだ「気付いて!」と叫び続けていました。
やがて壁を叩くのも、声も収まったので、時計を確認すると…やっぱり午前2時。
翌日、若しかして夢だったのかな…とも思いましたが、手を見てみると、右手の甲の皮がべろっと捲れていて、血も滲んでいました。夢じゃなかったのです。
そしてふと気になった事がありました。
自分は大概、霊が現れたところで「帰れ!」と一言言えば、霊はすぐに退散してしまうのですが…詰まり、霊とある程度はお話が通じるのですが…。
今回は、最初にいつものように「帰れ」と言っても帰らなかったし「気付いてるから!」と言っても、そう言った事が、相手に伝わらなかった。…言葉が、解らなかった?
霊は子供。しかも、白いもやもやとしている…といえば、これは水子霊?
水子というのは、死産した子供の霊の事です。詰まり、赤ちゃんの霊の事。
体が無いので、人の形を作れず、大抵は白くてもやもやして見えるそうです。
そして…不意に思い出した事がありました。
それは、自分が小学5年生ぐらいの事。
夜中にトイレに行く途中で、母と祖母が話している声が聞こえたのです。
祖母が、泣きながら「あんたには、死んだお兄さんがいたんだよ」という声。
母も「そうだったの?」と、泣きながら答えていました。
子供心に、親が泣く姿を見るのは、とてもショックだったので、しかも、内容も…やっぱり超ショッキングな事だったので「これは夢だ」と言い聞かせて、心の奥底に封印してしまったのです。
その事を思い出し、若しそれが夢じゃなかったとすれば…そして、今回現れた霊が、祖母の子だとすれば、若しかして「気付いて」というのは、自分じゃなくて祖母に向けられた言葉だったのでは…? と思ったのです。
確か、この事件のあった少し前に見た心霊写真特集の番組でも、矢張り水子霊が写り込んでいて、霊能者の方が「この子は、産まれて来なかった=無かった事にされた事を、とても哀しんでいるのです。
ご両親が、ちゃんと産まれてこなかった事を受け入れて下さい」と言っていた気がしました。
なので、自分は思い切って、母も交えて祖母に聞いたのです。
「若しかして、お母さんには、お兄さんがいた?」と。
でも、祖母ははっきりと「いないよ」と答えました(因みに母には、お姉さんが一人いるだけです)
「自分、5年生ぐらいの時に(※前述)ってのを見たんだけど、じゃあ、それってやっぱ夢だったの?」と聞いても「夢だよ」「そんな話、してないよ」と否定されました。
なので、自分は今回の一連の金縛りの事、そして自分の立てた仮説と、水子は両親に認めてもらわなければ成仏出来ないのだ、というテレビの引用を交えて話しました。
若し、あの霊が祖母の子で間違い無いのなら、成仏出来る方法はただ一つだから…。
母も祖母も、自分が霊感が強いのは知っていたので、金縛りの事は疑われもしませんでしたが…やがて、祖母は泣きながら「実はね…」と、さっき言った事を全否定し、告白し始めました。
矢張り自分の仮説は正しかったのです。
祖母には……ここはプライベートな話なので濁しますが、兎に角産めなかった男の子がいたのです。
そして、その子が亡くなったのが午前2時。そう、金縛りのあった時間と同じです。
祖母は、そして母も、ちゃんとその子が“居た”という事実を認めてくれました。
お墓は無いし、正式な供養もしなかったけど、その場で手を合わせ、産めなかった事、そして、無かった事にしようとした事を謝ってくれました。
そして…次の日から、金縛りはぱったりと無くなりました。