これは私が高校生の時です。丁度2年生になった時の事でしょうか…
私は部活をしていて学校の周りを必ず走ってから準備体操や練習、試合をしました。
いつもの様に学校の周りを走りました。
当時高校の周りは田圃ばかりで自然に溢れてのどかでした。
約2キロくらいの周りを3周くらい走っていた時です。
丁度部活の先輩が走るコースの脇に一台のバイクを見つけました。
今まで走っていてもそれはありませんでした。ホンダの小さな小型のバイク。
生産中止になったモン〇ーでした。赤で塗装も剥がれ錆びついていました。後輪はパンクしてました。
先輩達はかっこいいと喜び、私達下級生は先生等に見つからないように数人で部室の近くまで運ばされました。
先輩達は部活そっちのけでバイクの修理を部活の最中に抜け出し部品やパーツをコツコツと揃えて直してました。
一か月後経過した時です。日曜日に珍しく試合も近いので部活がありました。
私達下級生は突然先輩に集められて何事かと思い行くと、それは壊れたモン〇ーが見事に再生され復活してました。
塗装も先輩達が塗り直し綺麗になってました。
この日は顧問の先生や他の部活の生徒も少なく、先輩達はバイクにエンジンを掛け走らせてました。
乗ってみたいいいなとちょっとは思いました。
突然、部長のRさんが、
「おい。みんな。試合が終わった2週間後夜に学校に来い。俺達はもう引退だ。フィナーレや皆との思い出も兼ねて夏前の花火大会とこのバイクで走ろう。もう一台あるのでこれを使って学校の周りでレースしようや。」
と言いました。
え、と思いましたがバイクに興味もありましたし、Rさんにも凄いお世話になってました。
副部長のKさんが同じホンダのゴリ〇という小さなバイクをお兄さんが持っていたのでそれを使いレースしようという事になり、誰も反対者は居なくて無言の承諾となってしまいました。
夜の8時過ぎに学校に集合しました。
学校の裏側の体育館で最初は花火やお菓子やジュースを飲んで遊んでました。
1時間後、モン〇ーとゴリ〇が用意されました。
Rさんは、いつも学校の周りを走る農道で約500メートル真っ直ぐのストレートの農道を往復して交替し、対抗するチーム戦を提案しました。
私を含め皆もテンションが高くスタートしました。
互いに両チーム15人ずつで、私はくじ引きで12番目でした。
私達のチームはハナ先で負けてましたが正直勝敗はどうでもよかったです。
とにかくバイクに乗れればいいという楽しさ、好奇心で一杯でした。
11番目の1年生のD君が帰ってきてヘルメットをかぶりバイクに乗りました。
小さくかがまないといけない体勢は腰に来て結構きつかったけどアクセルを吹かすといいパワーで走り最高でした。
農道をひたすら真っ直ぐに相手チームに負けないぞと走ってました。
同着になり往復の地点でバイクの向きを変えてまたスタート地点に向かい戻ろうと走りました。
農道の側面は小川がありました。緩やかな農水の流れる川です。ザリガニや魚もいました。
その日は晴れていて細い三日月が夜空にありました。
私はバイクを走らせて左側の小川の水路に目が行きました。
何か丸い白い物が見えました。最初は月が反射してるかなと思いましたが三日月のはずなのに丸い。
おかしいな、ビニールか何かが浮かんでいるのかなと思いました。
すると水面から浮かんできたものは男性の顔でした。
オールバックで頭の付近が血まみれで無表情でした。
「ひぃっ!」私は怖くて錯覚かと思いましたがやはり男性の顔でした。
体勢を崩しそうで少し遅くなり抜かれてしまいました。
すると顔はボコッと水面に潜り見えなくなりました。何とか立て直して走りました。
何とか次の者に交替しました。
もうレースやバイクの楽しみは無く水面の顔が不気味で怖くしばらく震えが止まりませんでした。
最期のアンカーがR部長とK副部長の一騎打ちでした。
が、行きの途中で何故かモン〇ーが突如エンジンが止まり滑り小川に部長はバイクごと転落。
ドボンという激しい音が聞こえました。
R部長は川から上がりバイクも引き上げられずレースは中止に。
そして騒ぎを誰かが聞きつけて通報したのか警察のパトカーが遠くに見えたのです。
「解散!」の合図と共に皆散らばり自転車や走って全力で家に帰りました…。
その後小川に落ちたモン〇ーをRさん達は引き上げましたが、全く動かず。
しかも、その光景を学校の先生に怒られて大目玉を食らい丸刈りにされ、一か月トイレと体育館掃除をずっとしてました。
レースから数日後、後輩のD君と部室で清掃していた時、
「先輩。聞いて良いっすか?あの日のレースで川で何か見ませんでした?俺だけですかね?」と暗い表情でD君が私に聞いてきたのです。
私はその時に見た物を信じてもらえないかもしれないけど話しました。
するとD君は「やっぱり。俺だけじゃなかったんだ。先輩も見たんですね…」と語り始めました。
D君は交替し走らせていたら、川を見たら魚のような動きで這い上がってきたものに男性の虚ろな顔がありジロリとD君をしばらく見て潜っていったそうです。
それとD君のお兄さんも私達と同じ母校で聞いたのですが、昔、その農道付近ですごい勢いで走っていた車が横転し小川の近くの田んぼまで転がり横転。
運転手の若い男性が即死だったそうです。
内臓も破裂し脳みそも飛び出て、車がグチャグチャでガラスも散乱していたそうです。
運転手は酒を飲んで運転していたとの事で、D君のお兄さんは学生で登校時にその現場を見たときは田圃も血だらけで凄惨だったそうです。
私やD君があの夜に見たのはその死んだ運転手が乗り移った霊だったのでしょうか?
今は母校の付近は開発が進み田圃はほとんどなくなり住宅地と化しました。
ただ、あの夜見た小川だけは当時のままです…。
どうなってるのか調べたくもないし考えたくもありませんが…。
確かにあの時見たのは人間の顔でした。
今でも思い出すと背筋に寒気を覚えます。
そんな恐怖の体験話でした。
終わります。