神が嘶くトンネル~本谷隧道~(鳥取県八頭郡大江谷~志子部谷)

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時代に取り残された谷

鳥取県八頭郡の山奥にひっそりと佇む本谷隧道。

地元民すらほとんど使わない山奥の先にあるトンネルだ。

通称「隧道」。

隧道とはトンネルの和名。

第二次世界大戦が終わるまではトンネルのことを隧道と呼んでいた。

そんな古い和名のまま呼ばれているほど時代に取り残された場所、それが本谷隧道なのだ。

いきなり変わるオーラ、崖から滑り落ちた廃車

私がまだ学生の頃心霊スポット巡りが流行った。

それと共に突如有名になった場所、それが本谷隧道であった。

隧道にお化けが出るらしい、行くしかないでしょ。

若い学生時代だ、こうならない方がおかしい。

ノリと勢いだけで自転車を走らせた。

男3人組、一人では恐ろしくても不思議とできてしまうことがある。

意気揚々と自転車を漕いでいるうちに早くも踏み入れたことがない地域に入った。

今回の舞台「大江谷」に入ったのだ。

入った瞬間に分かった、嫌な雰囲気の場所だな、と。

隆々と生い茂った草木は日の光を遮り、日中なのに夜の闇を作り出している。

山奥なのに生き物の気配はない。

唯一遠くでセミが唸っているのがむなしく響く。

空気はじめじめしていてここ最近雨は降っていないはずなのに地面は濡れていた。

「やっぱり帰ろうぜ。」

誰もが喉まで出かかっていた言葉を何とか飲み込んでいる、そんな状態だった。

隧道は山を大分登ったところにある。

必死に漕いでいた自転車も、もう降りて何とか引きずって歩く、そんな急こう配に差し掛かっていた。

「おい」誰かか何かを見つける。

その視線の先は登ってきた山道から下に向かって伸びる崖に注がれていた。

そこには茶色く錆びて扉がへしゃげた軽トラックが転がっていた。

誰かが転げ落ちたのは間違いない。

それが何の理由か、命が助かったのかは知る由もない。

隧道に待ち受けていたもの

目指しているようで一生つかなくてもいい。

そんな気持ちでいたが順調に進めた歩は隧道まで導いてくれた。

暗く気味の悪いトンネルがそこにはあった。

ヤンキーたちのたまり場なのだろうか、赤と青のスプレーで落書きされた壁が気味の悪さをより一層湧きたてていた。

誰が初めに行くか、そんな話をしているうちに辺りの暗さが増していく。

「早く通って早く帰ろう」

日暮れも後押しして、3人そろって足を進めた。

中に入ると辺りの湿気を全て吸い込んだかのような空気が体を襲う。

壊れた電球、天井から垂れる雨水、気味の悪いことこの上ない。

もう帰ろう、ついに口に出してしまったその時、友人がばっと目を見開いてこういった。

「なんか聞こえる。」

その瞬間3人は一目散に駆ける。

自転車に向かって駆ける。

後ろを振り返る余裕もなかった。

一目散に自転車に跨り、急こう配の坂を滑るようにして走る。

すると突如雷が響き始める。

「まずい、神様怒らせたのかな」

そんな気持ちが胸を覆う。

直後、豪雨に襲われる。

これまで味わったことのない水圧。

と、その時。

「パンッ」

振り返る。

そこには涙が今にもこぼれそうな友達の姿が。

「パンクした」そんなところに置いていける訳がなかった。

仲良く二人で跨り、全速力で駆け降りる。

その時「パンッ」まさかのまさか、自分のタイヤもパンクしたのだ。

先を走る友人は気づくはずもなく先に駆け降りていく。

まずい。もう自転車は使えない。

二人して涙と鼻水が雨でぐしゃぐしゃになった顔を抱えながら、持てる限りの力で走っていく。

すると、先に自転車で走っていたはずのもう一人の友人が泣きながら座り込んでいた。

見ればわかった。もう一人の友人の自転車までもがパンクしていた。

3台全部がやられたのだ。

3人は恥も忍ばず、泣きわめきながら走って駆け降りた。

ずぶ濡れになりながらもなんとか家路につく。

この時の安堵感は今でも忘れない。

二度と悪いことはしません、そう神に誓ったのを覚えている。

トンネルで「何か聞こえる」といった友人に何が聞こえたのか尋ねてみた。

「なんかウーって唸るような声」それ以上のことは分からない。

ただ、神様か何者かが怒り、豪雨とタイヤのパンクを私たちに与えた、ということを今でも信じている。

これから先、二度と「本谷隧道」に行くことはないだろう。

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