私が大学生の頃、埼玉の実家で実際に体験した話です。
当時、お風呂に漫画を持ち込んで読むのが日課となっていました。
その日もいつものように体と髪を洗い、湯船に浸かりながらお気に入りの漫画を読み始めました。
漫画に夢中になっていたのですが、ある瞬間、漫画に目を向ける視界の隅に、動く気配を感じました。
あれ?と思い、動いた気配の方へ目を向けると、そこにはいつも通り、体を洗うタオルやスポンジがフックに掛かっています。
動くものは何もありません。
気のせいか…と思い、再び漫画の方へ目を向けると、やはり視界の隅で動きを感じるのです。
視界の隅で動くモノへ注意を払い少しずつ目を動かしてみると、パタパタとそのタオルがなびいているのです。
それも激しくパタパタと。
気のせいではない、でも浴室の窓も締め切っているはず…と、思ったその瞬間に、激しく揺れていたタオルがポトリと床に落ちました。
その瞬間に私は背筋がとても寒く怖くなり、もう出ようと思いました。
私は脱衣所と浴室のドアをいつも少し開けてしまう癖があったのですが、
その時も浴室のドアが10cm程開いていました。
もう出ようと思い、浴槽の縁に手をかけ、立ち上がろうとした瞬間、今度はとても鋭い視線を感じました。
この時私は湯船の中で体育座りのような体勢でしたが、視線を感じるのは浴室のドア、脱衣所の方です。
恐る恐る目を向けると、浴室のドアの隙間から、髪がべっとりと濡れ目が異様に大きな女の子が、
ドアから顔を半分だけ出してこちらを見ていました。
それも床から30cm程の高さから。
勿論家族の誰でもないし、そんな低い高さからこちらを覗くなんてことは、物理的に不可能です。
ちょうど私の目線に合わせたかのような…。
すぐに目を逸らし、恐怖のあまり目を瞑り、どうしようどうしようと震えが止まりませんでした。
けれど、このままお風呂に入り続けるわけにもいきません。
もう一度、恐る恐る顔があった方へ目を向けると、そこには何もありませんでした。
今だと思い、体を拭きもせず猛ダッシュでお風呂から飛び出しました。
家族に話しても信じてもらえず、結局あの濡れた顔が何だったのか今でもわかりません。
けれど、私はそれ以来隙間が怖くなってしまいました。