十数年前の8月、私がまだ20代だった頃の話です。
当時、福岡県に住んでいた私は、その時付き合っていた彼と熊本方面にドライブに出掛けました。
熊本県の植木市を通りすぎた頃、私たちは急激な眠気に襲われました。
それはドライブに出て2時間ほどが経った頃。
目的地もまだまだ先で、テンションも高く、お昼になったばかりの時刻です。
休む場所を探していると、とある公園の案内板を道路脇に見つけました。
私たちは、迷わずそこの駐車場で休憩を取ることにしました。
その公園は手入れの行き届いた綺麗な場所でしたが、人気は全くありません。
私たちは何の疑いも、迷いもなく仮眠を取りました。
30分ほど過ぎた頃、私はトイレに行きたくなり、一人車を降りました。
すると、真夏の昼だと言うのに、涼しいを通り越し、鳥肌が立つほど冷たい風が吹いていました。
足に抜ける風が妙な感触で、違和感を持った直後、耳の辺りに息の様なものがかかりました。
もちろん辺りには誰もいません。
その瞬間、“これはヤバイ”と思い、急いで車に戻りました。
私は、眉間にシワを寄せて眠っていた彼を強引に起こし、
「もう帰ろう!ここ気持ち悪い!!」と引き返すことを提案しました。
すると、彼は青ざめた顔でこう言いました。
「オレの上に誰か乗ってた………」と。
私たちは目的の場所に向かうのを諦め、急いで帰りました。
夜、母に昼間の出来事を話すと、
「アンタ、田原坂に行ったんじゃない?」と言われました。
なんと、私が公園の名前を言う前に母が言い当てたのです。
何故知っているのかと母に尋ね返すと、「知らないアンタがおかしい。」と呆れられました。
私は知らなかったのですが、その“田原坂”と言う場所は西南戦争の激戦地で、多くの方が悲惨な最期を迎えた場所だったそうです。
後から知った事ですが、私たちが休憩した場所は公園と言うよりは鎮魂の為の慰霊地だったのです。
その体験以来、私はその付近を通っていませんが、
その場所で心霊体験をした方は、私の周りにも数人いらっしゃり、“出る”と有名な場所だったそうです。
日が高い内から襲われた急激な眠気。
それは、私を誘うものだったかもしれません。