時計に纏わる話なのですが、私の故郷の遠縁宅に人を狂わせる
「狂わせ時計」と呼ばれる時計がありました。
実際にその時計を見たのは1度だけです。
そこに住んでいる私よりも年が上のお姉さんが、こっそり見せてくれました。
普段はしまいこんで、出さないそうです。
その遠縁宅のおじいさんが宮司さんで、その縁で何かと相談を受けることが多いとのことでした。
「狂わせ時計」も相談を受け、おじいさんが引き取ったとのことでした。
その時計は造りが古いネジ巻き式のものというだけで、格別値打ちものであるような時計ではありませんでした。
ただ、その時計が動くと人が狂うらしいのです。
時計が最初に狂わせたのは、時計が置かれていた家のおばあさんでした。
足が悪かったおばあさんは家にいることが多かったのですが、
ある日突然這うようにして家から出てきて悲鳴をあげながらよろよろとどこかへ行こうとしました。
幸いその日は、家には畑仕事から一足先に戻ってきていたお嫁さんがいました。
お嫁さんがおばあさんを宥めて家へ連れて帰ろうとしましたが、
おばあさんは狂ったように叫び続けて拒否しました。
近くを通りかかった親戚の男性がとりあえずおばあさんとお嫁さんを自分の家へ連れていき、お嫁さんと男性と彼の奥さんが話を聞きました。
おばあさんは「時計が…」と繰り返すのみだったそうです。
結局おばあさんは、別に住んでいたおばあさんの子どもの家に引き取られました。
するとおばあさんは嘘のように落ち着きました。
おばあさんはその後、「時計を処分して」と何度も訴えたそうです。
でも皆、おばあさんが年をとったせいで妄想のようなものが入ったのかと思うだけでした。
次に狂わされたのはお嫁さんでした。
おばあさんのように、ある日突然悲鳴をあげて家を飛び出し、狂ったように外を走りました。
お嫁さんは深い川に落ちそうになりましたが、何とか近所の人が抑えて事なきを得ました。
お嫁さんも「時計が…」と繰り返していたそうです。
お嫁さんはとりあえず実家に、療養目的で1番下の子と遠くの実家に帰りました。
お嫁さんも落ち着くと「時計を処分して」と訴えましたが、
お嫁さんの旦那さんはあまり気にはとめなかったそうです。
しかし残された他の子ども達は不安になり、時計の処分を父親に訴えますが相手にされませんでした。
子ども達は親戚宅へ行くなどして、なるべく時計から離れていました。
そしてとうとう今度は、旦那さんが狂わされました。
旦那さんは夜中に突然絶叫しながら家を飛び出し、暗い夜道を走りました。
旦那さんは車道に飛び出したところで車に跳ねられました。
しかし車がスピードを落として走行していたことが幸いし、軽い怪我ですみました。
旦那さんも「時計が…」と繰り返していたそうです。
最終的にその時計は先述の遠縁宅に預けられたそうです。
時計が動いていない時は、何も起きないようです。
時計が預けられてから、最初にお嫁さんと子どもが家に戻り、次におばあさんが戻ってきました。
その後はおばあさんが今でいう認知症のような症状が少し出たそうですが、
特に問題は起きずに、元の仲の良い家族として過ごしていたそうです。