知人(40代男性)の体験した話です。
彼は20代初めの頃、友人と連れ立って心霊スポット巡りをするのを趣味にしていました。
まだインターネットが普及していなかった時代、ガイドブックなどを駆使しながら、全国各地に存在する心霊スポットを片っ端から探索しては写真を撮ったり、戦利品を収集したりしていたそうです。
お化けを見る機会には恵まれなかったものの、単純に気の合う仲間とワイワイするのが楽しかったと言っていました。
そんな彼らが初めて恐ろしいものに出合ったのは、茨城県の県中に位置する某廃墟に出かけた時のこと。
そこは高台にポツンとある地元では有名な心霊スポットで、「出る」と言われていたんだとか。
知人達は若く、ヤンチャなタイプだったこともあり、その日も軽いノリで乗り込んだそうです。
到着したのは午後8時過ぎで、懐中電灯で足元を照らしながらの探索になりました。
崩れかけた建物の中をあちこち歩き回り、始めのうちこそ楽しんでいた彼らですが、めぼしいものが見当たらなくてすぐに退屈してきました。
いい加減で引き上げるかと考えていたその時、カチャリと音が響きました。
なんだろうと音のした方向へ視線を向けると、小さな二つの光が地面から30センチくらいの高さに浮かんでおり、こちらへ近づいてきていたそうです。
一瞬びっくりした知人ですが、すぐに野良猫だとわかり、一緒に固まっていた友人に「大丈夫だ、猫だ猫だ」と声をかけました。
友人も納得したらしく、その場にしゃがんで「来い来い」と猫に呼びかけ始めました。
それに応えるかのように猫の目らしき小さな光はスーッと距離を詰めてきました。
猫と知人達との間には壊れた窓があり、そこから月の光が入ってきていたのですが、やがて小さな影をゆっくり照らし出しました。
明るい場所に姿を現したそれは、フランス人形でした。
あちこち焼け焦げ、ボロボロになった体を震わせながら確かに歩いてきていたそうです。
それを見るが早いか、知人達は一目散に逃げだしました。
建物の目の前に停めておいた車に乗る時間も惜しくて、そのままダッシュで坂道を走り抜けて民家のある場所に着くまで一秒も立ち止まれなかったそうです。
明るくなるまでまんじりともせずにコンビニで過ごし、朝になってから恐る恐る車を取りに戻った時は、なんの気配もなかったとのこと。
今までいろいろな心霊スポットに出向いていた知人達でしたが、あんなものを見たのは初めてだったそうです。
「ビビり過ぎて死ぬかと思った」と最後に彼は語りました。