1940年代は第二次世界大戦の真っ只中であった。
当時の日本政府は満州から中国人を強制労働者として北海道の炭鉱で働かせていた。
現在ではほとんどが廃坑になり、山奥にひっそりと坑道を忍ばせいている。
10年前私が中学生だった頃、
少年4人は雪が積もった美唄の山奥に歩を進めていた。
目的はスキー場付近で単なるスノートレッキングをするためであった。
それは山を登り切り、澄んだ空気を味わい木々に囲まれた細道を下っていた時ことだ。
中腹を過ぎ、道も穏やかになり始めると。
突然「砂**二炭鉱」とかかれた立て札に出会う。
雪は積もっていたが坑道らしき洞窟も見え、それは私たち少年の好奇心をくすぐった。
「なあ、ちょっと入ってみようぜ」なんて誰かが発し、つらづらと全員入っていった。
中はかなり暗かったが、非常時のために持っていた懐中電灯をつけ楽しげに中へ入っていった。
道はそこまで長くなく途中で立ち入り禁止の柵があったため、私たちはがっかりしながらもそこから立ち去ることを決めた。
その時だった。
柵の向こうから薄らに「…ガラガラ」と何かを引くような音を聞いた。
気のせいかと思ったが、少年たちは音のする方を注視した。
…ガラガラガラ、トットット…足音が混じりだした時私たち少年の内二人が「やばいって!」といい逃げていった。
私ともう一人の少年は好奇心と足のすくみからその場から動けず、近づく足音から逃げ出せずにいた。
…ガラガラ…ガラガラ…不意に柵の向こうから、ランタンのような影と灯りが見えた。
…ガラガラガラガラッッ…ドンッ!!音が止まる。
向こうの灯りは揺らめきながらだんだん近づいてきた。
私は(怒られる!)と思いぎゅっと目をつぶった…
トットットと足音が近づきぶつぶつと声が聞こえ始めた。
…ぶつぶつ?怒鳴り声ではなくて?私は訝しく思い目を開けた。
瞳を開けたさきには人影が映った。
黒ずみ痩せこけた頬、首元に巻かれた擦り切れの手ぬぐい、
ボロボロで毛ば立った国民服、両腕にまかれた赤黒い包帯。
口からは感情のこもらない意味不明な呪詛が綴られており、目線は宙を彷徨い続ける…。
私は彼がこの世にいてはいけない者だと感じた。
「逃げるぞっ!!」そう言われ、急いで入口へ引き返す。
ボーイスカウトで習ったお祈りを叫びながら入口へ急ぐ。
入口の灯りが見え、少し安心した私は後ろを振り返る。
彼は追ってこなかったように見えた。
大きく息を吐き足元に目線を置くと、包帯と国民服が、私の足元に絡みついていた…。