その日は忘年会で深夜2時を超えていました。
京都では珍しく雪が積もり、年の瀬で賑わう人々を困らせていました。
当然電車はなくタクシーで帰ろうとしましたが、捕まる気配がなかったので私は酔っていたこともあり歩き出しました。
気がつけば東山トンネルまで来ていました。
このトンネルは車が走る道路の横に、歩行者専用の小さいトンネルがあります。
トンネルは周囲の暗さに引き換えかなり明るかったのですが、それがなおさら不気味に見えました。
私は、入り口まで来て立ち止まりました。
寒気がしたのは雪のせいだけではなかったでしょう。
しかし、こんなところに立ち止まっていても仕方がありませんので、私はトンネルの中へと歩き出しました。
トンネルの中は風が遮られていたのですが全身にまとまりつくような冷気で私を包んでいました。
私はその時何故か後を振り向きたいという衝動にかられました。
何故だかわかりません。
ただ自分の後をやたらと振り向きたくなったのです。
しかし、心のどこかから声がするのです。
振り返ってはだめだ。
見てはダメだと。
私は氷点下近くの気温にも関わらず全身に汗が滴り落ちていました。
早く出ないといけないと思い走り出しました。
しかし、一向にトンネルの出口が近づいてこないのです。
私はおかしいと思い足元を見ました。
私は走っていたと思っていたのにゆっくりと歩いていただけでした。
それでも私はなんとか動かないといけないと思い汗だくになりながら出口を目指しました。
出口に到達するまでの時間は長いようにも短いようにも感じましたが、なんとか辿りつくことができました。
そしてトンネルを出ようとするまさにその瞬間。
耳元で声がしました。
「なんで見てくれないの」