私にはデカ兄ちゃんと呼ぶおじさんがいます。
(背が大きく、小さいころからの愛称です)
今年で50近くになる彼。
大の車好きでトヨタに勤めたのち、独立して今でも自動車関係の仕事をしています。
年に祖母の家で1回会うか会わないか程度でしたが、ある年始に久々の再会を果たした際にそっとこんな話をされました。
彼が大学一回生のとき。
免許を取ったばかりの彼は、学科で車の魅力に初めて触れ虜になっていました。
すぐにアルバイトをはじめ中古で一番安い車を購入しました。
ある日、同じく車好きの仲間たちとドライブがてらバーベキューをしよう、ということになりました。
「長野の蓼科高原にいこう」
誰とは無しにつぶやき、貸別荘を借りて1泊する小旅行をすることにしました。
当時18歳、お金もないので安い貸別荘をさがしていると、破格の物件が目に留まりました。
場所を良く見直すと、なるほど、別荘地帯からは少し距離があり山奥に入った場所でアクセスが悪い。
「4人みんな車出すしバーベキューの道具はそれぞれ積めばいいからここでもいいんじゃないか?」
迷うことなくその別荘で決まりでした。
初日、バーベキューも楽しく終わり、夜も更けると各々色々な話をします。
自分の彼女のこと、気になっている子、将来のこと。
そんなこんなで話ははずみ、時計が0時を指し示すころには、皆、気持ちよく眠りにおちていました。
3時くらいだったでしょうか。
デカ兄ちゃんがふと目を覚ましました。
遠くのほうから車が走ってくる音が聞こえます。
サーーーーーーーー。
夜から降り出した雨に濡れた路面を走るタイヤ。
(どこの車のエンジン音だろう・・・。)
車オタクの彼がそんなことをぼんやりと考えているとだんだんとその音が近づいてきます。
サーーーーーーーーーーーーーーーー。
キッ。
自分たちの貸別荘の前で止ります。
その頃になると皆自然と目を覚ましていました。
バタンッ!
コツコツコツコツ。
人が降りてこちらに近づいてきます。
「おいおい。俺らなにかやったかなぁ。」
「管理人でもきたんじゃないか?」
「こんな夜中にくるか?」
ドンドンドン。
当時インターフォンも付いていないドアをたたく音。
しばらくドアをたたき続けます。
放っておくわけにもいかないので4人そろって玄関までソロソロと連れ立ちます。
ドア越しに
「はーい!」
と声をかけ一人の友人がのぞき穴に目を当てました。
「あの・・・。すみません・・・。どうか一晩だけでいいので泊めていただけませんか?道に迷ってしまいまして。」
ドアの向こうには雨にぐっしょりと濡れたまま立ち尽くす男がいました。
(これ絶対まずい。こんな真夜中にこの山奥まで車を走らせるわけがない。)
4人とも本能的に危険を感じました。
「すみません、場所がどうしてもなくて、どうか、お引き取り願えませんか。」
コツコツコツ。
バタン。
サーーーーー。
男は黙って車に戻り去っていきました。
「何だよあれ気持ち悪いな」
「絶対あげてたらなにかされたよ」
「あーねよねよ」
翌日。
「夜は気持ち悪かったけれどバーベキューも楽しかったし、充実したな。」
「のんびり帰るかー!」
そんな話をしながら、ふとデカ兄ちゃんがのぞき穴を覗いた友達に目をやりました。
もともと彼は霊感がある、というのが仲間内での話で、どうにも調子がわるそうでした。
「おい、どうしたー?」
「いや、さ。見間違えかと思ったし、おまえたちのこと変に怖がらせたくないから言わなかったんだけどさ。
あの貸別荘、玄関はいったら正面にテレビあるだろ?
一番最初に貸別荘はいったときにテレビに生首が一瞬見えた気がしてさ。
それが昨日の男とまったく同じ顔だった。」