真冬のある日、高校時代からの友人グループは、久しぶりに渋谷で飲み会をすることになりました。
平日だったので、仕事が早めに終わった人たちで集合して先に某有名なカラオケ店に行きました。
その日はとても冷え込んでいたのですが、店内は暑いくらいに暖房が効いていました。
そのまま4階の一番はしの部屋へ行ったのですが、なぜか、すぐそばにある非常口のドアが開いています。
しかも、非常階段を誰かが駆けて行ったような気がしてなんとなく階段を覗いてみたのですが、誰もいません。
変な人(泥棒とか置き引きとかその類)かと思ったため、扉を閉めてしばらく外の様子に気を付けていたのですが、スタッフさんもその階段を使用している気配はありません。
しかし、曲を歌い進めているうちに、部屋の中から非常階段が見える位置に居た子が「非常階段に人がいるっぽい」と言い出して、わたしと彼女とで階段を見に行ってみました。
ちょうど雨が強くなってきて非常階段も冷えて濡れています。
「このお天気にそんなとこに人が?」わたしと友人は思わずお互いの腕を掴みました。
いたのです。黒い影のような、男性のような動くモノが。
「このドア、さっきわたしが閉じたよね?」友人が青ざめていました。
誰も通ってないはずなのに、ドアが開いています。
「まぁ、閉まりの悪いドアかもしれないじゃん?」そう答えるわたしの顔は引き攣っていたと思います。
黒い影がゆらりと動き、わたしたちの部屋へとすっと入っていったのです。
硬直するわたしたちの背後では、室内で
「あれ?マイク音が出なくなった」
「画面がおかしい」
「空調がおかしい。寒い」
と友人たちが騒ぎはじめていました……。
結局、室内に黒い影は居座り続けていました。
それ以来、渋谷でカラオケは怖くていっていません。