走馬灯という言葉をご存知でしょうか。
貼られた紙に細工がしてあり、灯すと影絵が出て、
回転させることにより絵が動くという灯籠のことです。
人間が死にかけた時、死に面した時、
頭のなかに今までの人生の思い出が駆け巡るとき
「走馬灯のように」と表すので、こちらのほうが一般的でしょう。
一般的に走馬灯は、思い出や記憶が形作るものですが、
これが混線したという話を聞いたことがあります。
大学に入り、大型バイクの免許を取り、
自前のバイクを買った男性Nさん。
このNさんがある夜、バイクで乗用車と事故を起こした時の話です。
20kmは続く山中の国道、対向車線からはみ出してきた乗用車は、
Nさんのバイクを、まるで足下の石でも
蹴り転がすかのように易々と撥ね飛ばしました。
彼はガードレールを突き破り、崖下にある民家の壁に叩きつけられたのですが、
そのとき自分の時間感覚がゆっくりになり、走馬灯を見ました。
山の中、大きな湖、知らない男性と楽しそうに話す自分の姿。
おかしなことに、なぜかその記憶の中では、自分は女性だったのです。
1ヶ月半程度の入院を経た後、Nさんは警察の事情聴取のため、現地に赴きました。
すると、落下して壁にぶつかった民家で、
ちょうど何か法事をしていたそうです。
事情を警察官が話し、壁の確認をしていたのですが、
気になったNさんは家の人に、今日は何か法事中でしたかと話を聞きました。
ちょうどその家では亡くなったおばあさんの49日をしていたとのこと。
さらに聞いていくと、そのおばあさんが亡くなった日は、
自分が事故をしたその日のその夜だったことがわかったのです。
「最後にはおじいちゃんと会った日のことを夢見てたみたいでねえ、
何度も何か呟いていたんだよ」
そのおじいさんというのは湖の近くに住んでいましたか?
と聞いたNさんですが、家族は「昔のことで覚えていない」と言ったそうです。
確証はありませんでしたが、Nさんはうっすらと理解しました。
自分の見た走馬灯は、自分自身の人生から出てきたものではない。
この家で死んだおばあさんのものだったのだろうと。