十数年前の話です。
私は当時学生でした。
進学先は東京で勉強もサークルもバイトもそれなりに楽しみ充実した日々でした。
自画自賛じゃないけど色々な経験をさせてもらい心も体も充実した黄金時代でした。
ですが、一つだけ思い出したくない体験があります…。
それは千葉に行った時の事です。
それは夏休みに入る直前でした。
私は就活も一段落。一応地元の企業に内定を頂きました。
その際にいつも行っていた中華料理店でアルバイトをしていましたが、店長の病気と少し離れた場所の移転でアルバイトを辞めたところでした。
丁度ゼミのH教授に授業が終わった後呼ばれました。
H教授は何かと私に目を掛けてくれて色々話してくれたりしました。
同じ故郷出身という事もあったのでしょう。
お酒や米の話ではよく盛り上がり教授に誘われて飲みに行き奢ってもらったこともありました。
就職の際、地元の企業の内定が取れたのもH教授のアドバイスもあったお蔭で感謝しきれませんでした。
私はH教授の部屋に入ると、
「君、今バイトしてなかったよね?もし、実家に帰る前にちょっと手伝ってくれないか?知り合いに頼まれて。バイト代弾むけど。まだ人がいないんだよ。」と言われました。
就職も決まった私でその時はアルバイトもなく、夏休みに入ったらそれまでなかなか帰らなかった地元に戻り実家で過ごしたり単発なバイトでもしようかと考えていました。
私は、お世話になったH教授の願いを引き受けました。
その3日後、私は、同じゼミの後輩の女性のYさんと同じ年の違う学部のD君と共にH先生の車に乗り千葉県に向かいました。
某夢の国の手前とだけ申しましょうか。
その市に入り駅からしばらく車を走らせると10分くらいしたらぼろい市営住宅らしき建物が見えました。
車を降りて住宅の1階の部屋にドアを開けて入りました。すると消臭剤と嗅いだことの無い一瞬吐き気がしそうな臭いが混ざってました。
部屋には他に中年の男女の方が片付けしてました。
H教授は、「君達。申し訳ない。ここは前私が教えていた教え子の部屋だ。数週間前突然死んでしまった。ここで3日間片付けの手伝いをしてほしい。」
と教授は深々と頭を下げました。
その日、リビングや風呂の片づけをしました。
一人暮らしで汚いかと思いきや結構きれいでスムーズに行きました。
中年の男女の方は無くなった教え子さんの同級生でした。
あとは和室ともう一部屋片付ければ完了でした。
ですが、一部屋は本が結構入っていて人一人二人入れるスペース。
もう一部屋は教え子さんの無くなった部屋でした。
その日は教授の車で帰り、次の日の朝再び部屋に来ました。
教授は学会の資料作りもあり夕方迎えにくるということで朝から作業してました。暑い日でした。
部屋は幸いエアコンがあり何とか作業に集中できました。
私はYさんと中年男性のOさんと本の部屋を整理をしていました。
D君と女性のMさんはずっと亡くなった教え子さんの部屋を整理してました。
お昼になり、教授の注文してくれた弁当が届きリビングで食べてました。
ですが、何故かD君とMさんはあまり言葉を発せずに暗い表情で食べてました。
教え子さんはそこで心筋梗塞で亡くなったのであまり居心地が良くない為だろうと思ってました。
午後はローテーションで教え子さんの部屋を掃除することになりました。
ちょっと臭いがたまに鼻に付きましたが、書類などを整理してました。
隣で片付けしていたYさんと話をしながら作業してました。
ですが、Yさんは「ちょっと休ませてください…」と暗い表情で部屋を出て行きました。
私はOさんと箪笥の衣服等を話しながら出してました。ふと私は気づきました。
ベッドの付近に一つの小型の鏡があることを。
やけに綺麗で透き通って吸い込まれそうな鏡でした。
作業をしてましたが、時折照りつける太陽の日差しがそれに当たりまぶしく輝いていたので私は動かすことにしました。
その時にOさんに「慎重にね。あまり見ないほうがいい。」と言われました。
私は鏡を取り日の当たらない所に動かそうとした時でした。
鏡には私、部屋の中が写っていました。
が、もう一つ写ってました。
それは背の小さい白髪交じりのオールバックの小柄の男性が写ってたのです…。
私は恐る恐る振り向くといません。
部屋には私とOさんしかいません。
再び鏡に目をやると、小柄の男性がうつろな顔をして佇んでました。
私は鏡を動かして、なんだか気持ち悪くなったので部屋を出てトイレで胃の残存物を全て吐きました。
おちついて出て、リビングでぐったり休んでいたYさんが私を見て言いました。「見たんですね…」と。
私は背筋に強烈な寒気を覚えました。
その後復帰し鏡を見ることなく作業。
教授が迎えに来て帰りました。
最終日は、朝からH教授も加わり、近くの神社の神主さんにその部屋をお祓いしてもらって作業し、午前中に終了。
全ての部屋が綺麗になりました。
部屋を去る時に教授は写真を出して「良かったな。みんなのお蔭で部屋が綺麗になったぞ。」と言ってました。
その写真には、私が見た小柄の男性と瓜二つだったのです。
それが部屋で亡くなったNさん本人という事がわかりゾッとしました。
その後、同級生のOさん、Mさん、Yさん、D君とも話をしたのですが、
その部屋で鏡を見て男性が写っていて気持ち悪くなったりしたとカミングアウトしてくれました。
私が見たのはNさんの霊だったのでしょうか?
何か死後も訴えたかったのでしょうか?
H教授から聞くと製薬会社の研究室で働いていて、奥さんも子供も居たみたいですが、
二人とも若くして病気で亡くなりNさんは仕事をしながらずっと一人暮らしだったそうです。
H教授から色を付けてもらった当時としてはなかなかいいバイト代でした。
ですが、スッキリしなくて今でも思い出すと鏡に映ったNさんの姿はインパクトがあり暗くなるので思い出したくありません。
そんなひと夏に私が経験をした怖い話を終えたいと思います。