数か月前に祖父の法事がありました。
私は実家から数十分の場所に家族と住んでいます。
実家は父親、母親、弟夫婦がいます。
弟は清掃の会社の部門で働いて頑張っています。
何かと研修や出張も多く、最近は実家によっても居ないことが結構ありました。
が、法事で久々に再開しお酒を飲んで話したりしました。
弟と同じ席になり飲んだり話してました。
弟は突然、
「兄貴。昔、静岡に行ったことがあったろ。その時俺、あの場所で怖い思いしたんだよ…」
と弟の話が始まり、思い出した部分もありました…
それは、今から十数年前。
弟がまだ学生の時でした。
私は社会人になったばかりでした。
ある夏の日に実家に戻ってきた弟に頼まれました。
「兄貴。悪いけど、俺稽古で静岡に行きたいんだ。連れてってくれない。」と。
何故かというと私の祖父は死ぬ前に合気道をしていました。
父も、私も、弟も習ったりしたことがありました。
弟が学校でも合気道のサークルに入り、そこにいる先輩に上手な先生を紹介してやるから行って来いと勧められました。
そこは静岡にある合気道の道場でした。
私は夏休みでしたので弟を乗せて静岡に。
大学時代の友達が当時静岡に赴任していたので遊びも兼ねてでした。
私はホテルにその日は飲んで泊まることになり、弟は一日道場に泊まり稽古することになりました。
確か静岡の向敷地らへんだったと思います。(今はあるかどうかはわかりませんが…)
大歓迎と書かれた看板に比較的大きい道場でした。
ただトタンや色んなのが継ぎ接ぎの場所で本当に道場かと思いました。
ですが、道場に合気道の胴着等着用し入っていく人も多く、ああそうなんだなと思い弟を下ろし、翌日にそこに迎えに行き実家に帰った記憶がありました。
「あの日さ。稽古は充実していて、道場の先生や仲間達と食事して楽しかったんだ。でも、寝る時。夜にさ…」
弟はビールを飲み干して話をつづけました。
その日、道場の二階が宿泊できる場所になっていて、弟と年一回そこに通い泊まって稽古するDさんという方と同部屋になったそうです。
風呂に入り、夜ビールを飲んで話して語ってました。
下の部屋は先生や奥さんが居るので小声で気を使って…。
いつの間にかDさんは寝てました。
弟はトイレに行きたくなりました。
トイレは1Fにしかなく木の階段をミシミシ音を発てて降りたそうです。
トイレに入り用を足しました。
電気は豆電球で明かりも暗く何とかしました。
そのトイレには小窓があり、昼間使用した時も近くの安倍川が見えて綺麗だったそうです。
窓の外は三日月が出ていたそうです。
弟は良い眺めだと見とれていた時でした。
突然窓から女の顔がバッと出てきたそうです。
「うわっ!」と弟は叫んでました。
見ると色白で目が真っ黒で何かを訴えてるような顔でした。
が、直ぐに消えたそうです。
弟は脅えながら、2Fに駆け上がり部屋に入りました。
寝ていたDさんが、目覚めて「何か見ちまったか?」と弟を見て言いました。
弟はあまりの恐怖に無言で頷くことしかできませんでした。
するとDさんは「ああ、害はねえよ。たまにな。大丈夫。」と言って布団に入り寝ました。
弟も怖くて直ぐに布団に包まり寝たそうです。
翌朝何事も無く朝稽古し、私は昼車に弟を迎えに行きました。
その時の弟の表情を覚えてますがかなり暗く明るさはなかったです。
その時は稽古がハードで疲れたのかと思ってました。
(現に直ぐに数分で寝てしまいましたので…)
「兄貴が迎えに来てくれる前に稽古が終わってさ。
気になってトイレの後ろを見に行ったんだ。
地面には女性の長い髪が大量に落ちていてさ…気味悪かったんだ。忘れてくれ。」
と弟は酔いもありましたが暗く語ってました。
身内とはいえ弟が嘘を付く人間でありません。
そんなことがあったというのは初めて話で知りました。
弟はそれ以降現在も合気道は続けていますが、その静岡の場所にはそれっきり行ってません。
同室のDさんは何か知っていたと思いますが、翌朝には仕事があると行って早々帰って行ったのでそれ以来聞くすべもないので分かりません。
いったい何があったのかわかりません。
ただ、弟の怖い体験、話を聞いて世の中には想像のつかないこともあるのだなと思いました。