■廃墟マンションを訪れる
私は廃墟マニアです。
新たなる廃墟写真をコレクションに加えるため、
茨城の廃墟マンション(通称ブラックマンション・Bマンション)を訪れました。
茨城でもとりわけ田舎の、人の通りもない僻地にそのマンションはありました。
四階建てでやや大きいですが、コンクリートの枠組みしか残っておらず、
残留物はおろか、ドアも窓ガラスも見当たりません。
高いフェンスと、ぼうぼうの雑草に囲まれていて、侵入は困難に見えました。
かつて出入りに使われていたであろう入り口にも厳重な鍵が掛かっており、入れません。
しかしマンションの周りをぐるりとまわってみると、
わずかにフェンスが引きちぎられている箇所があり、
そこからなんとか侵入できそうでした。
生い茂る雑草を掻き分け、わさわさと音を立てながらなんとかマンションの前にたどり着きました。
雑草を越えると、すっきりとしたコンクリートの平地が広がっています。
階段は廊下の両端に二箇所、それぞれ屋上まで繋がっていました。
■気味の悪い男の子
マンションの中に入り、一階部分を撮影していたところ、
急に後ろに気配を感じ、私は振り向きました。
すると、雑草を越えたそばの平地、私から四、五メートル離れたところに、
二十才くらいの男の子が立っていたので驚きました。
さっきは確かにいなかったし、雑草を掻き分ける音も聞こえなかったので、
私よりも先にマンションへ来ていたのかもしれません。
肌は青白く、表情もなく私を見ていました。
カメラどころか、荷物を一切持っていません。
気味が悪いので放っておくことにして、私は二階に移動しました。
■徐々に近づいてくる姿
二階も一階と同じで、コンクリートの枠組みがあるだけで残留物は一切ありません。
同じ画になりそうなので、一、二枚撮影して廊下に出たところ、
さっきの男の子が立っていました。
身動きせず、二、三メートル距離を置いて私を見ています。
気持ち悪いので早足で階段を上がり、三階と四階を軽く覗いた後、屋上に出ました。
天気の良い青空です。つかの間日光を浴び、写真を撮り、
帰ろうと身を翻すと、一メートル先に男の子が立っていました。
私はそろそろ身の危険を感じ、男の子から離れた方にある階段を使って駆け下りました。
気持ち悪い変質者に違いないと思いました。
こんなど田舎の廃墟で何かされて私が声を上げたとしても、
気づいてくれる人はいないに違いありません。
幸い、私を追う足音は聞こえて来ませんでした。
一階まで一気に降りて、それから私は振り向きました。
あの男の子はまだ屋上にいるはずでした。
それなのに………
■目の前に
男の子の顔は、私の目と鼻の先にありました。
焦点の合わない目で、じっとこちらを見ています。
肌が真っ白で、死人のようでした。
私は急いで雑草を掻き分け、マンションを出ました。
そしてそのまま二度と振り返らず、家まで帰りました。
もし、あの時もう一度振り返っていたら、私はどうなっていたのでしょう。
思い出すだけで身がすくむ思いです。
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