キャバビルのオープン
そのビルがキャバビルとして新たなスタートをきったのは、もう数十年も前になります。
都内ほどとまではいきませんが、それなりに繁盛しキャバクラと行ったらこのZビルであると、地元ではあっという間に有名になりました。
Zビルのオーナーと、最初に入った店舗のキャバクラの社長は同年代であり、共に地元を盛り上げる仲間としてお互いにずっと頑張ってきました。
付き合いをかねて、二人で同じビルの上から下までしょっちゅう飲みに行ったりと、それは年をとり世代が交代したことでも変わりはありませんでした。
キャストとしては、少々はっちゃけすぎな二人のようにも思えましたが、そのおかげで低迷期があろうとも乗り切れたと言っても過言ではないでしょう。
このビルを古くから知っている人は、スタッフだけでなくお客さんも大勢おり、私もよく自分の店舗の社長と共に席につかせて頂いたものです。
そう、その日もうちの社長が彼等の後輩と共にお店へやってきておりました。
その時に、信じられなようなことを私は知ってしまったのです。
接待かと思いきや
なんせ、オーナーもお年をめしており少々若者としては気をつかう面も多く、いくら尊敬に値するといっても気疲れしてしまうことも度々あります。
彼の下で働いている方々が、二人で呑みにきて「今日は辛かったなぁ」とこぼしたもので、
あぁこれはオーナーの接待だなと感じた私は
「オーナーのお付き合いですか?先週もいらして、女性と楽しく歌ってましたよ」と声をかけたのです。
ですが、お相手は何故か目を丸くして「なんだ、お前。まだ知らないのか?」と言葉を濁しました。
私が彼の予想外の反応に戸惑っていると、社長と目くばせをしゆっくりとこう告げたのです。
「オーナーな、今日亡くなったんだよ」
あまりの驚きに私は持っていたグラスを落としてしまいました。
オーナーといえば、確かにお年は召していたものの、先週会ったばかりでとても具合が悪そうには見えなかったからです。
「それだけじゃねぇんだよ…オーナーと一緒にビルの立ち上げしたYさんがいるだろ、そうだ。元々この店の社長だった人。あの二人仲良しでなぁ、その人も昨日亡くなっちまったんだよ」
なんという偶然でしょうか、話を聞いているとオーナーが亡くなったのはいつものように飲んでいた帰りのことだったそうです。
突然、血を吐いて倒れた彼は、そのまま救急車で病院へ運ばれましたがすぐに息をひきとったそうです。
平日にも関わらず混みあう店内
オーナーの自宅で社長たちはかつての思い出や葬儀の準備の手伝いをしていたとのこと。
生前、彼が好きであった飲みの席を再現しようと二人ともどこか切ない目をしながら、はしゃぎます。
賑やかな人だったので、最後も賑やかに送ろうとしたのでしょう。
オーナーはあれが好きで、これが好きでと語りながら酒を呑み、カラオケを歌います。
ただでさえ、少ない女の子を余計につけてまで、私たちは盛り上げます。
それはまるでオーナーが隣にいるかのようでした。
平日にも関わらず、お客さんはどんどんと入ってきます。
しかし、隣の席にだけはどんなに混もうとも、お客さんが座ることはありませんでした。
私は、店長たちが気を使っているのだと、そう思い込んでおりましたが、そうではなかったのです。
幽霊の出る店は繁盛する
社長たちが店を出たあとに、ボーイに粋な計らいするねぇと声をかけました。
ですが、かえってきたのは「え、だってあの席ずっと4人だったじゃん」と、そう言うのです。
一緒に席についていた女の子たちもそれにはびっくりでした。
中には自分の指名客が来ていたにも関わらず、その席についていた子もいたからです。
いったいボーイの目には誰が映っていたのでしょうか…。
意外かもしれませんが、水商売では幽霊が出る店は繁盛するというジンクスがあり、歓迎されることが多いのです。
私は、オーナーたちが自分たちで盛り上げてきたビルをこれからも見守ってくれるのではないかと、そんな予感がしております。
なんせ、お酒が大好きな二人でしたから。
お店自体が天国のようなものかもしれないなと。そう思ったのでした。