あれは、私がまだ幼い頃の出来事でした。
はっきりといつかは覚えていませんが、おそらく幼稚園に入ったくらいの年齢だったでしょうか。
母方祖父の父である曽祖父が亡くなりました。
当時は、人が亡くなるということがどのようなことなのか分かっていませんでしたが、幼いながら雰囲気で何となく察して大人しくしていました。
大往生だったせいか悲しんでいる方はあまりおらず、久しぶりに会う親戚同士で話が弾み笑顔の方が多かったのを覚えています。
私は、祖父と一緒に曽祖父の柩に入れる花を摘みに行きました。
田舎で周囲が田んぼだらけで春だったこともあり、れんげの花を摘みました。
今は昔ほど見なくなりましたが、当時はどの田んぼもれんげの種を蒔いていたのかあちこちれんげ畑だったのです。
私がれんげを摘んでいる間、祖父は曽祖父の遺影を抱き、れんげを摘む私のことを静かに見ていました。
もしかしたら、曽祖父にあの綺麗なれんげ畑を見せたかったのかも知れません。
れんげの花をいっぱい摘み、柩に入れようと田舎道をふたりで歩いて帰りました。
曽祖父の家に着き、ふと曽祖父の遺影を見たとき驚きました。
曽祖父の遺影の目の周りに虹色のモヤのようなものができているのです。
そのモヤはゆらゆらと動いていました。
不思議に思い祖父に「これはなあに?」と聞いたところ、
祖父は私の目を見ながら「ひいおじいちゃんは怒っているんだよ。
みんな世間話に夢中で自分に手を合わせてくれないから。」と言われて驚きました。
これはいけない!と思い、
「じゃあ私が手を合わせるね!」と遺影に向かって手を合わせたところ、
その虹色のモヤは消えていきました。
この虹色のモヤはこのあとにも出て、手を合わせると不思議と消えていきました。
私が虹色のモヤに遭遇したのはこれっきりでした。
もし、葬儀中に遺影に虹色のモヤができていたら、それは亡くなった方が怒っているのかも知れません。
もし見かけたらきちんと手を合わせてください。
あの虹色のモヤを放っておくとどうなるのか私はわかりませんが、
もしかしたら、もっと別の何かが起こるのかも知れません。