これはスキューバダイビングで潜りに行く仲間、お寺の住職のSさんの体験した話です。
Sさんは大学生の時の事です。
親から寺を継げと言われましたが、当時Sさんはやりたいことや僧侶はなりたくないと口論になり、バックパッカーとして海外を半年ほど放浪しました。
韓国等東南アジアから始まり、ヨーロッパに入りました。
スペイン、フランスと抜けてついにドイツに入国した時でした。
各国格安のユースホステルを探し利用し泊まってました。
ドイツのミュンヘンに着き、Sさんは事前の調べと現地の人と話して数十件ある中でそんなに古くないホステルを発見し受付し手続きしました。
二人部屋で、そこには日本語を話せる台湾の方と同室になりました。
台湾の方と故郷や会話もでき意気投合したそうです。
Sさんは可能な限り5日間は滞在を考えていたそうです。
台湾の同室の方はTさんという男性で医師の卵だったそうです。
そのTさんはSさんに言いました。
「いいかい。S。この部屋は普段はいいけど夜には注意するんだ。不思議な事が良く起こる。僕の口からは全ては語れない。でも起こったらとにかく眠れ。」
と真顔で言われたそうです。
Sさんはミュンヘンの街並みを観光したり、日雇いで稼げるところはないか探し軽く食事をして部屋に戻ってきました。
戻ってきたのは夜の22時くらいだったそうです。
Tさんは1か月近くいて知り合いのつてでバーでアルバイトをして朝にならないと帰ってきませんでした。
Sさんはドイツ語を軽く勉強したりゆったりし、いつの間にかベットで寝てしまいました。
深夜、寝ていたSさんはドンという大きな音で目を覚ましました。
瞼を開いて何事かと見たらテーブルの本が落ちてました。
Sさんは起き上がりそれを戻そうかと思いました。
ですが、Sさんの身体は動きません。
金縛りのような感じで顔しか動かせません。
可笑しい、変だなと思っていたら、椅子が小刻みに動いたり、自分の寝ているベッドが地震のような軽い揺れがあったりしました。
更にSさんの胸辺りが非常に重く息苦しくなってきました。
顔しか動けないSさんが目で周りを見ると、白い煙のような物が部屋全体に漂っていたそうです。
しかも、夏で部屋は結構暑かったはずなのですが、やたら涼しくなってきました。
Sさんの耳元が急に冷たくなりました。
ふと自分の頭の上の方に目をやろうとすると、顔は良く見えないけど髪の長い女性がSさんを見下ろしていたそうです。
Sさんは驚いて怖くなり声を出そうとしましたが出ません。
恐怖に耐えながら同室のTさんの言葉を思い出して、目を瞑り寝ることに専念しました。
Sさんは心の中でお寺でお父さんに教わったお経を何度も唱えて繰り返し続けました。
Sさんの意識が薄れてなくなるまで…。
翌朝、Sさんは目覚めました。
部屋はエアコンを冷房で付けたような寒さと、自分の寝ていたベッドの頭付近のシーツが濡れていました。
椅子やテーブルも水で少し濡れたようになっていました。
そこにバイト明けで帰ってきたTさんが「君も体験したな。」と疲れた表情で語ったそうです。
Tさんが1か月前に来た時から、夜金縛りにあったり、女性や老人の姿を見たりしたそうです。
2日に一回はあったそうです。
朝になるとシーツが濡れていたり、椅子やテーブルが別の場所に動いていたりしたそうです。
同室に来た他の旅行客は気味悪がって部屋のチェンジや、出て別のホステルに行ったりしたそうです。
噂では過去にこの部屋で自殺や殺傷未遂の惨劇があったとホステルの掃除の叔母さんから聞いたとTさんは言ってました。
その話を知っているのは一部の古いスタッフしかわからないそうです。
だから、ここの部屋に泊まるのは格安で泊まれると。
Sさんも結構広く快適でベッドもいいホステルの部屋で安い料金で驚いてましたが、まさかその為に安いとは思いませんでした。
Tさんもあと数週間で台湾に戻るので気にしないと笑ってました。
Sさんは不気味に思い、ドイツの中で次に大きい都市のハンブルグに高校の時の先輩が住んでいるのでそこを頼ろうと出ていく事に決めました。
Tさんに別れを告げて、チェックアウトし、ハンブルグへ向かいました。
先日、スキューバダイビングの暑気払いで飲みSさんは毎年この時期にその話をするのです。
もし、眠らなかったらSさんはどうなっていたのでしょうか?そんな怖い話でした。